順電圧(Vf)が小さいため、電源回路でよく使われるショットキーバリアダイオード(以下SBD)。
通常のダイオードと比較して、漏れ電流が桁違いに大きいという特性があるので注意が必要です。
私が過去に体験した不具合を例にして説明します。
過去に体験した不具合事例
下記のような昇圧回路を組んで評価をしていた時に、ヒューズが切れるトラブルに遭遇しました。
詳しく調査を進めたところ、ヒューズ以外にも下記の2カ所でショート破壊が起きていました。
- NMOS-FETのS-D間
- SBD
この2か所のショートがヒューズが切れた原因なのは間違いなさそうですが、一体何が起きたのでしょうか?
不具合の原因
2つの部品が壊れていましたが、先にSBDが破壊したということは直ぐに理解出来ます。
MOSFETがショートした段階でヒューズが切れてSBDに電圧がかからなくなるので、SBDが破損する理由が無くなりますからね。
何らかの理由で先にSBDが破壊し、そのことにより下記のような事が起こってMOSFETが破壊したと考えられます。
- MOSFETがOFFの時、出力コンデンサに電荷が溜まる
- MOSFETがONの時、(SBDがショートしているので)この電荷がMOSFETに流れる
- この電流はMOSFETも出力コンデンサも低インピーダンスなので大電流になる
MOSFETが破損する理由は分かりましたが、なぜSBDは破壊したのでしょうか?
それがタイトルにもある漏れ電流によるものだったのです。
SBDは漏れ電流が桁違いに大きい
漏れ電流(逆方向電流)は、データシートにはIrという記号で記載されています。カソードに電圧をかけた時に、カソードからアノード方向に流れる微小な電流の事です。
では、ダイオードとSBDのスペックを比較してどれ程 逆電流が大きいのか確認してみましょう。定格はどちらも200V 10Aになります。
SBD:
ダイオード:
一見そんなに変わらないと思いきや、縦軸の桁が違います。通常のダイオードと比べるとSBDでは2桁程度、高温条件では3桁近く漏れ電流が大きくなっています。
1mAの漏れ電流でも、100V以上の電圧を整流している場合は無視は出来ない電力になります。
漏れ電流は温度が上がると指数関数的に上昇する
グラフを今一度見てみると、漏れ電流の軸は対数表記になっています。
つまり、温度の上昇によって漏れ電流は指数関数的に増加することを示しています。
この特性の為に、SBDがある温度まで上昇してしまうと、熱暴走と呼ばれる下記のような状況になってしまいます。
- 漏れ電流によって温度上昇
- 温度上昇によって漏れ電流増加
- SBDが破損するまで1と2が無限ループ
これが私が経験した不具合の原因でした。
対策案
この不具合の対策案としては以下のようなものがあります。
私はこの中から低Irタイプへの変更と、SW周波数の低減を実施して対策しました。
低Irタイプを選定
SBDの中にも、材料によっていくつかのタイプがあります。
その中には漏れ電流が低く抑えられた、低Irタイプや超低Irタイプと呼ばれるラインナップがあります。
これらのラインナップであれば熱暴走のリスクを低く抑えることが可能です。
接合金属にモリブデンやプラチナを使用したものが低Ir特性になるようです。
SW周波数の低減
ダイオードが順方向電流ON状態からOFF状態に移行するのには多少の時間が必要となります。この時間は、逆回復時間(trr)と呼ばれる特性です。
逆回復時間の間はダイオードの整流特性が働いていないので、逆電流が流れてしまいます。
電力損失 = 逆電流 x 逆電圧 となるので、整流している電圧が大きい場合には無視できません。
SW周波数を低くすることで逆電流の流れる頻度が小さくなり、ダイオードの発熱を抑えることが出来ます。
放熱性能の向上
デバイスの放熱を積極的に行う事で、熱暴走の温度まで上昇しないことを目指します。
方法としては下記のような事が考えられます。
- 接続する基板パターンの拡大
- ヒートシンクの使用
- ファンの使用
2,3はコストアップに直結なので、なるべく1で済ませたいですね。
まとめ
SBDは順電圧(Vf)が小さいのでダイオードよりも発熱には有利と思いこみがちですが、下記の3点を忘れると思わぬトラブルに見舞われます。
- SBDは通常のダイオードと比べて桁違いに漏れ電流が大きい
- 漏れ電流は温度上昇により指数関数的に大きくなる
- 漏れ電流増大 ↔ 温度上昇 のループになると熱暴走を起こす
スイッチング電源回路でSBDを使用する際は、熱暴走によるトラブルにならないために下記の配慮を検討してください。
- 低Irタイプを使用
- SW周波数を低く抑える
- 放熱性能の確保
私の経験した不具合が誰かの役に立てば幸いです。
その他のハード設計トラブル
ここで紹介したトラブル以外にも、私の経験したハード設計トラブルを紹介した記事があります。
これらの記事も、今後のハード設計に生かしてもらえたらうれしいです。
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